Tuesday, July 14, 2015

"Neanderthal Man: In Search of Lost Genome"(読書ノート):【4】デニソヴァ人、新たな旧人の発見

ネアンデルタール人に次いで、シベリアの洞窟(デニソヴァ洞窟)で発見された骨から抽出されたDNAからmtDNAの完全配列を決定した [Krause et al., 2,010]。この論文は史上初めてゲノム塩基配列から新たな旧人が記載されたケースとなった。この洞窟で発見されたのは臼歯と骨の小片の二点のみであったが、思いのほか保存状態が良く、現代人のDNAによる汚染の少ないDNAを得ることができた。

さらに核DNAの配列を決定した。その結果、デニソヴァ人は現代人よりもネアンデルタール人に近いことがわかった [Reich et al., 2,010]。したがってネアンデルタールとデニソヴァの共通の祖先の枝が現代人の祖先と別れた後に、これら二つが分岐したということになる。

Pääboらは既にネアンデルタールと人類の間で遺伝子交換があったことを発見している。そこで疑問はこのデニソヴァ人と人類とではどうか?である。期待通りというべきか、デニソヴァ人のDNAの痕跡もまた現代人のゲノム上に残されていることがわかった。しかし意外なことにそれはパプア・ニューギニア人のゲノム上に顕著に保存されていたのだ。その割合は4.8%という高い頻度であった。

奇妙なことに地球上の他の地域に住むどの人々もデニソヴァ人DNAの痕跡を持っていなかった。このパプア・ニューギニア人のデニソヴァ人DNAはデータベース上の多くの個人のゲノム情報でも確認された。一方デニソヴァ人のDNA自体にも、より古い時代の人類(おそらく原人)のDNAの痕跡も認められた。このような推定は既にネアンデルタール人のゲノム情報が揃っていたからこそ可能となったのだ。結局人類の祖先は、系統の分岐と交雑を繰り返しながら種を形成していったらしい。

このデニソヴァ人の発見の意味するところは大きい。その理由は、現生人類はアフリカで生まれた後に、ユーラシアに進出した。そこで行く先々で遭遇した近縁な人類?(旧人)と交わってそのDNAを受け入れた。おそらくその旧人集団の規模が小さい場合はその集団自体が交雑によって消滅したであろう。またある場合は人類との競合を避けて旧人はより条件のよくない場所への移動を強いられて、絶滅に至ったのであろう。絶滅危惧種の維持には地理的隔離が保たれることが必要であることは以前きわめて簡単に触れたことがあるが、ヒトの進化の過程はこのような地理的隔離と融合の繰り返しであったと思われる。

無論限られた骨とそこから得られたDNAからわかることには自ずと限界がある。しかし尾本恵市が述べているように、人類学というのは限られた情報をもとに想像力をもって人類のたどってきた道筋を探ろうとする学問である。ゲノム情報がわかっても、人類学のこの本質が大きく変わることはないのだ、というのが私の感想である。

 (続く)

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