Wednesday, November 26, 2014

絶滅危惧種の敵は感染症

教科書的な話で申し訳ないが、感染が成立するためには三つの条件が必要である。それは、感染源(病原微生物)、感染経路、それに感受性宿主(ヒトまたは動物)である。もしある地域の集団が、その感染症の流行を過去に経験していないときは(免疫を持っている割合が0%なので)爆発的な流行を引き起こす。宿主集団の感受性が高いというわけである。これが現在西アフリカで起こっていることである。エボラ出血熱ウイルスに対する免疫を持っているヒトの割合は世界的にみても0%なので、この爆発的流行は全世界に拡大する可能性がある。したがって現在は唯一の方法である感染経路の遮断(空港での患者の発見と隔離)に躍起になっているのである。

このような壊滅的な感染症の流行は人類史上繰り返し起こってきたと思われるが、コロンブスの米大陸の“発見”の直後起こったことは比較的明確に記録されている。

カリブ海の多くの島では欧州人によって持ち込まれた天然痘などの病原体により現地人は全滅してしまった。エスパニョーラ島(現在のハイチとドミニカ共和国、北海道より少し小さい)では1,492年には800万人もいた人口が1,535年にはゼロになっている。この記述はダイヤモンドの著書”銃 • 病原菌 • 鉄”の中にある。察するにエスパニョーラ島は大きな人口を養える豊かな島であったに違いない。欧州人との接触後の人口の激減は北米大陸の広い地域で起こったとされる。(この原住民の絶滅における伝染病の重要性を、米国の義務教育で歴史の科目で教えていることは興味深い。米国の教育は州ごとに違うので全ての州で教えているとは限らないが、少なくとも筆者の住むテネシー州では教えている。)

世界的に進行している生物の絶滅は、この危険な”未知との遭遇”を抜きにして論じることはできない。9月21日に当ブログで掲載した”The Sixth Extinction”の中でも記載されているが、中米パナマの名物の蛙(Panamanian golden frog, Atelopus zeteki)があっというまに消滅してしまったという (1)。この原因は、カエルツボカビBatrachochytrium dendrobatidis, Bd)という真菌の感染によることがわかっている。このカビのせいで皮膚から電解質がうまく吸収できず、最終的にカエルは心機能の低下をきたすという。Bd1,980年代後半から猛威をふるい、このために約200種の両生類が絶滅したとされる。最近はアジアに棲息していた別のカビBatrachochytrium salamandrivorans (Bs)が輸入両生類とともに欧州に侵入して、現地の両生類を脅かしている (2)。 

オーストラリアのコアラはクラミジア感染によってその数を減らしている (3)。これに対処するためにワクチンを開発して投与したところ、感染率が低下し、既感染個体については症状の軽減がみられたという。このような取り組みが動物種絶滅を防ぐ(または絶滅を遅らせる)効果があることは明らかであろう。しかし、どの種から保護を始めるのだろうか? また同じ動物群に新しい感染症が出現したら同じような手法を繰り返す必要があるだろうし。野生動物の保護に一体どの程度の手間と費用をかけるべきであろうか? コアラのような愛らしい国のシンボルは人々の同意を得やすいだろう。しかし、絶滅危惧種は気の遠くなるような数である。絶滅危惧種の救済のために、他に山積している問題(飢餓、人の感染症、環境問題)のすべてを放置するわけにはゆかない。

ウイルス感染も難しい問題だ。イリオモテヤマネコにとってネコ免疫不全ウイルス(FIV)の感染は脅威である。沖縄の自治体ではFIVが広がるのを防ぐために様々な策を講じている (4)。竹富島では野良猫を捕獲し、すべての飼い猫の登録制度を作った。島嶼部では感染症に対処するのが比較的容易である。感染症ではないが、久米島の農作物害虫のウリミバエの駆除でも同様であった(11月4日記事参照)。

近年のように人や物資が大規模に動く状況では野生動物の未知の感染症との遭遇は避けることができない。生物多様性が保たれてきた理由の一つは様々な種が地域的に隔離されてきたために、それら地域種の接触する病原体の種類がかなり限定されていたということがあると思う
(地理的隔離が崩れつつあることの重要性は違った角度、すなわち近縁種との交雑という面からも論じられるべきだと思うが、長くなるので別の機会にしたい。)


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