Thursday, April 2, 2015

メタゲノム的アプローチの威力と問題点【1】

1. 古典的スクリーニング法の効力と限界

  抗生物質の探索について振り返ってみる。

 抗生物質が発見された主要な微生物は放線菌Actinobacteriaと呼ばれるグループである。これらは主に土壌中に棲息している。したがって、研究者は土壌中の微生物を片端から培養し、単離した菌を小規模培養し、その培養上清の抗菌活性を調べるという作業を繰返してきた。その結果、数多くの抗生物質が発見され、患者治療に用いられるようになったのである。
 このような培養を基本としたスクリーニングには限界がある。活性の高い菌株はスクリーニングの初めの頃に見つかることが多い。目立つわけだ。したがって、スクリーニングを継続しても、既に見出されている物質が再び見つかることが多い。これをredundancy problemという。このような“取り尽くし”の状態を回避するために、農芸化学者達は、未開拓の環境に棲息している菌の培養を試みた。例えば、深海とか、温泉にいる菌である。しかしもっと大きな問題は、環境中の微生物は、既存の培養法では培養できないもののほうが圧倒的に多数なのである(腸内細菌なども同様である)。
 一方、古典的スクリーニングには大きな利点がある。それは、最初から目的としている活性を目安にしてスクリーニングしているので、発見された菌株を培養することが当然可能なことである。さらに大量培養にもっていくことも容易である。

 分子生物学的手法によるスクリーニング
 1,990年代から、ヒトを含む多くの生物種のゲノム配列が次々と決定された。これらの塩基配列は公的機関(例えばNational Center for Biotechnology Information, NCBI)のデータベースに収載され、一般に公開されている。近年コンピュータの処理速度が大幅に改善されたこと、およびメタゲノムデータベースが蓄積されてきたことにより、データベース上の塩基配列情報に基づいて新規物質産生に関わる遺伝子をコンピュータ上で探索する試みがなされている。そのうちの二つの例を挙げて (1, 2)、新しい手法の威力と限界について考えてみたい。なおこのうちの一つの論文(2014, Cell)は既に本ブログで簡単に紹介している (1)(10/4/2014掲載)。今回は方法論的な問題点について批判してみたい。

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