Saturday, April 4, 2015

メタゲノム的アプローチの威力と問題点【2】

2.塩基配列相同性に基づいた新規インドロトリプトリンindolotryptolineの発見

 今回は、メタゲノムDNAソースからの二次代謝産物産生遺伝子群を探索するという研究を紹介したい。


 細菌の産生する数多くの生理活性物質はトリプトファンの二量体を出発点とすることが多い。このうち最も広く研究されているグループはインドロカルバゾールindolocarbazole群である。その理由は、この群のうちのいくつかがキナーゼ阻害作用を持ち、抗がん剤として知られているからである。既に100以上のindolocarbazole化合物が知られているが、類縁のindolotryptoline (dihydroxy-dihydro-pyridol[1,2-a:3,4-b’]diindole)化合物についてはほとんど知られておらず、わずかに2物質のみが知られている。

 ロックフェラー大学のSean Bradyらは、新規indolotyptolineを見つけるために、塩基配列相同性に基づいたmetagenomic screeningを試みた (1)。メタゲノムmetagenomeというのは、環境中から直接採取されたDNAの総体、またはその塩基配列の総体を指す。良く知られているゲノムは、ある生物種の一個体のもつDNA情報の総体を意味する。したがって、データベース上にある特定の菌株のゲノム情報は、配列決定に供された菌株のゲノム配列の全てが原則切れ目なく収載されている。一方、メタゲノムはある場所に棲息する生物集団(通常微生物)のDNAの総体である。一般的にはそこに棲息する 個々の菌株のゲノムとしては不完全であり、かつ菌種数や個体数は把握されていない。場合によっては、死滅した個体のDNAも相当量含まれていると考えられる。そのかわり、メタゲノムはそこにある多様な生物種のDNAを網羅的に含んでいるわけである。
 Bradyらは新規indolotryptolineを見出すために、indolotryptolineindolocarbazole合成経路においてよく保存されている酵素、すなわちoxy-triptophanの二量体形成に関わる酵素に着目した。この酵素のプロトタイプはスタウロスポリンstaurosporin合成経路のstaD遺伝子である。clustalWによる解析では、staD遺伝子の近縁関係から作った遺伝子のグループと、それら代謝経路の最終産物とがよく対応していることがわかった。したがって、未知の遺伝子であっても、その最終産物の予想がつく。そこでBradyらはstaD遺伝子の高度に保存された領域内にdegenerate PCRプライマーを作り、PCRを行った。このとき用いたDNAライブラリーはカリフォルニア州南部にあるAnza-Borrego砂漠の土から得たコスミドライブラリーである。このライブラリーのサイズは107以上である。著者らはこのような環境中から得たDNAeDNA (environmental DNA)と呼んでいる.
 クローン番号1091 PCR産物の塩基配列を決定したところ、このDNAindolotryptoline合成に必要なadeDあるいはclaDに該当するものであった。このDNAをプローブにしてコスミドクローンを探し出したところ(clone AB1091)、既知のindolotyptoine産生遺伝子クラスターであるBE54017cladolamide Aとよく似ているが、明らかにこれらとは異なる遺伝子クラスターを持っていることが判明した。著者らは後にこの遺伝子クラスターから産生される複数のindolotryptolineborregomycinsと命名し、各遺伝子をbor-O, bor-D等と命名した。
 次の問題は、このbor クラスターから実際に新規のindolotryptolineが作られるか否か? あるいはそこから生産されるindolotryptolineの構造と活性はどのようなものかということである。

 古典的スクリーニングでは、見出された菌株は最初から活性物質を産生し、かつ培養可能である。一方、塩基配列をもとに見出された新規物質を産生する遺伝子の場合は、実際に見出された遺伝子から予想された物質が産生されるかどうかは不明である。本論文で用いられたライブラリーはコスミドベクターをベースにしている。コスミドベクターは30-45kbのインサートを収容できる。したがって、細菌に由来する通常のサイズの二次代謝産物産生遺伝子クラスターを完全に収容できるサイズである。本論文ではborインサートをStreptomyces/E. coliのシャトルベクターに入れ替えて、S. albusに導入した。この最初の試みは、当該物質の産生量が予想に反して低く、とても後の解析に必要な化合物を得ることは不可能であった。二次代謝産物の異種細胞内での産生には、その遺伝子クラスター内に存在する転写調節因子を過剰発現することで良好な発現を得られることが知られている。そこで著者らはAB1091上の遺伝子クラスター内にある転写調節因子bor-Rを別途発現ベクターに組み込み、加えてS. albusに導入した。この細胞内でのborクラスターの発現は良好で、産生されたindolotryptolineは構造解析に十分な発現量であった。著者らは最終的に5種類の構造を決定し、これらの抗腫瘍、抗菌活性を調べたところ、グラム陽性菌とHCT116細胞(ヒト大腸癌細胞)に対して活性があることが判明した。
 このような新たな試みの結果、著者らはこれまでに2つの化合物の存在しか知られていなかったindolotryptolineに、新たな物質borregomycinを加えることができたわけである。

 この論文から、我々はメタゲノム的アプローチの有効性を読み取ることができる。もしメタゲノムの由来が多様な生物種に由来する遺伝子を網羅しているならば、そこに従来の分子生物学的手法を組み合わせることにより、新規遺伝子(群)を見出すことができる。但し、ここでいう“新規”とは、全く人類が知らなかったという意味での新規ではなく、既存の遺伝子に類似しているがこれまで知られていなかったという意味である。

 生理活性物質の解析における重要なステップは、その大量生産と構造決定、および生物活性の検定である。本論文では、幸いにしてborクラスターを完全に含むコスミドクローンを取得できたので、これをStreptomyces株に導入することで、大量産生への道筋をつけることができた。これらのいずれかのステップが封じられれば、borregomycinの構造決定と活性測定は不可能であったろう。
 

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