米国のスーパーに行くと、その一角に様々なコメが売られているのに気付く(写真上)。棚の上の大きな面積を占めているのはアメリカ長粒種(American
long grain)と呼ばれるものである。これは主にジャンバラヤなどのケイジャン料理に用いられる。アメリカ人がコメというと、だいたいこの種類である。他にもバスマーティ(インド料理に用いる)や、ジャスミン(タイ料理などに用いる)、あるいはアルボリオ(イタリアのリゾットなどのコメ料理に用いる)が普通に売られている。アジア食材コーナーに行くと、日本米や糯米も売られている。アジア食材専門店ではこれらアジア米はより大きなパッケージで売られている。但しバスマーティなどインドのコメはインド食材店で売られている。欧州のコメ料理の代表としてパエリアがあるが、これに用いるコメ(主にボンバライスと呼ばれる)はあまり流通しておらず、健康食品の店に置いてある(写真右上)。日本のスーパーと違い、多種類のコメが売られている。売り場の写真を撮るのはほとんど犯罪行為と知りながら写真を撮った。
筆者はライスバイブルという本を持っている(写真左)。この本は米と稲に関する概説から世界の代表的なコメ料理のレシピが載っているという大変有益な本である。残念ながら絶版になってしまったがアマゾンから古本が入手可能である。自分でも試してみた結果、各国の米料理を調理する際に最も大事なことは、それにふさわしいコメを使うことである。多種類のコメが入手可能である点において米国は日本よりも好条件だと思う。日本のコメは世界的にはかなり特殊で、東アジア以外の人々は食べない。アメリカ人にとっては寿司以外には使わないコメである。さらに職場の昼食時に各国出身者と話をしてみると、各国の人々は自分の食べているコメの種類に対する意識が低いということもわかってきた。”コメはコメだよ”という具合である。この点日本人もいつかのタイ米騒動以前は同じような感覚だったように思う。
筆者の住むテネシー州のミシシッピ川を越えた西隣はアーカンソー州である。この州はビル・クリントン元大統領が出たことで日本でも多少は知られているが、特に大きな都市もなく農業が主要な産業である。日本人に多少関係があるとすれば、この州が米国最大のコメ生産量を誇っているということと、大戦中に日系人収容所があったことぐらいだろう。米国ではコメは主要穀物中その生産量が7位(2,011年)である。したがってコメの地位は高くないのだ。しかし全米でコメの生産量は日本一国分にほぼ匹敵する。米国の農業生産全体の力がわかろうというものである。
アメリカで主に生産されているコメはその名の通り長粒種である。したがって、生物学的にはOryza
sativa var indicaである。このインディカ米はどこから持ち込まれたのであろうか? これは米国でしばらく生活していて持つようになった疑問である。そのことを知りたくて、アーカンソーを訪ねてみた。目的地はスツットガート (Stuttgart,
AR) である。しばらく州間高速道路 I-40 を西に向かい、農業地帯を走る一般道に降りる。そこは見渡す限りの田圃である。このときすでに9月の末だったので、イネはすでに黄色く熟し、もうすぐ稲刈りという時期であった(写真上)。スツットガートは名前の通り、ドイツ系移民の入植した町に違いない。しかし現在は寂れた田舎町だ。収穫後に集荷されたコメを貯蔵するエレベーターが目立つ(写真下)。この田舎町には世界最大のコメ梱包会社Ricelandがある(写真下)。“世界最大”といっても会社の規模はさほどではない。その理由は上に述べたように、コメ生産の農業全体に占める地位が高くないことによる。
町のはずれにアーカンソー大平原博物館 (Museum of Arkansas Grand Prairie) がある(写真右)。この小さな博物館は以前はアーカンソー農業博物館と呼ばれており、アーカンソーの平原地帯の歴史、それも主に農業の歴史を展示している。ここにアーカンソーにおける稲作の起源、さらには米国における稲作の起源に関する手がかりがあると目星を付けたのだ。
(続く)
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