Saturday, July 25, 2015

Double-muscled pigs 筋肉を増やしたブタ

筋肉の量が増えるブタを中韓グループ(ソウル国立大学と延辺大学)が開発した  [Cyranoski, 2,015]。これとは別に英国と米国のグループも同様のウシとヒツジの作出に成功した [Proudfoot et al., 2,015]。両者ともTALENを用いている。これらの家畜で行われた遺伝子改変は、すでに従来型の育種で得られたウシでみられた遺伝子変異を新しい gene editing 方を用いて短時間で作成したので、いわゆるトランスジェニック動物とはまったく異なる。

おそらくこの流れは止めることはできない。同様の手法で既に無角のウシや、アフリカ豚コレラウイルス(African swine fever virus) に抵抗性のブタが作られている。問題は各国の規制がどうなるかであるか、である。すでに最近の記事で、米国ではCRISPRなどの信頼性の高いgene editing法を用いた遺伝子改変生物に関しては従来法による場合よりもより緩い基準を適用する方向に動いていることを紹介した。ドイツ政府も同様に考えている。

中国での食肉消費量は莫大なので、 このブタの認可が待たれている。また実際に開発に携わった韓国側の研究者は、このブタが中国で最初に認可されるであろうと予想している。

さてこの筋肉の多い (double-muscled) ブタである。研究者たちは横紋筋の量を抑制する遺伝子 (myostatin, MSTN) TALEN法で失活させた。ふつうのブタのゲノムとの違いは数塩基対の欠失または挿入が起こっているだけである。Belgian blue cattleは筋肉の量が多いことで高い評価を得ているウシの品種だが、従来型の育種で出来上がったものである。このウシにはMSTN遺伝子に突然変異が入っている。したがって、中韓グループが作ったブタは従来型の育種の過程でいずれ見出された可能性がある。但し、この従来法では相当な時間がかかる。

ここで重要なのは、このブタの品種はBtナスのように本来持っていなかった遺伝子が導入されたわけではない。したがってこのようなブタは“異物”を体内で作るわけではない。安全性については従来法の育種で得られたものと同等と考えざるを得ない。操作の過程で偶発的に起こりうる予期していないゲノムの傷の可能性は次世代シークエンシングのデータを精査すれば排除できる。

今後このような作成原理に基づいた安全性の評価体系を作ってゆく必要があると思われる。
さて日本の対応は?


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