核のゲノムの塩基配列が決定された結果、mtDNAではわからなかった事実が明らかとなった。厳密な統計処理の結果、現代人のゲノムの2%にネアンデルタールの配列が存在することが判明したのだ。例によって慎重なパーボは別のアプローチを取ることにした。ひと連なりのネアンデルタールの配列が、現代人のある人には存在し、他の人には無いということを示すことにしたのだ。つまりネアンデルタールに由来する多型の存在である。これらの作業の結果、ネアンデルタール人の遺伝子が現代人のゲノムに流入していることを示した [Green et al., 2,010]。 mtDNAの最初の論文から13年が過ぎていた。
たいへん面白いことに、地球上の各地に存在するヒトのうち、アフリカ人のゲノム上にはネアンデルタール人由来のDNAはなく、それ以外のすべてのヒト、欧州、アジア、オセアニア、遠く西太平洋のイースター島に至るまで、人々はネアンデルタール人のDNAを持っていたのだ。
このようなデータから導かれる結論は次のようなものであった。アフリカで成立したヒトの一部の集団が、現在のパレスチナ付近を通ってユーラシア大陸に拡がった。このユーラシアに移動した直後にその付近にいたネアンデルタール人と交雑した。実際イスラエルにはヒトの遺跡とネアンデルタール人の遺跡が混在している。しかしヒト集団のうちネアンデルタール人と交雑してその遺伝子を受けたのは比較的少数で、ネアンデルタールの遺伝子は薄められることになる。結果2%の含量でネアンデルタール人の遺伝子を持った集団が成立し、これがユーラシア全域、さらには遠く南北アメリカ、オセアニアにまで拡がったとする。
種が成立するためには地理的隔離がおこることで、それぞれの集団が独自の方向に進化する必要がある。これがヒトとネアンデルタールのような異なる集団を成立させた条件である。しかしこれら二つの集団の間で遺伝子の交換が行われたのでこれらを独立した種であると見做すのは難しい。いずれにしても、現代人はアフリカを出た後も移住した先に住んでいた類縁集団と交雑しつつ現代人としての種を形成していった可能性が分子生物学的に確認されることとなった。
研究の進展にしたがって、パーボはメディアに登場する回数が増えた。このヒトとネアンデルタールの遺伝子交換を記載した論文が出たときには、メディアのみならず一般の人々からも多数のメールを受け取ったという。その主なものは、“自分(男性)がネアンデルタールであったとは知らなかった。”、および“自分の夫(恋人)がネアンデルタールであったとは知らなかった。”といものであったという。
“ネアンデルタール人=男“の図式である。
(続く)
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