Monday, July 20, 2015

“How I Got Converted to G.M.O. Food”

少し前(4月24日)のニューヨーク・タイムス (NYT) に遺伝子組み換え作物 (GMO) をバングラデシュで普及させるプログラムに参加した経験をもつ人物の記事が載っている (How I Got Converted to G.M.O. Food”)。この人物はもともと反 GMO 活動に参加していたが、やがて GMO を推進する側に考えを変えたという。この話を要約すると以下の通り。

バングラデシュでは政府機関(BARIによって害虫耐性ナス (Bt Brinjal)が開発され、これが小規模農家で試験的に栽培されている。このナスは殺虫性タンパクを作る細菌由来の遺伝子を組み込んだものなので、正確には殺虫性ナスと呼ぶのが正しいのかもしれない。この導入遺伝子も導入手法自体も既知のもので新規性はない。この品種で期待されるのは、大量の殺虫剤を使用する必要がないので、農家の生産費用の削減と殺虫剤による生産者の健康被害が防げることである。農家は虫害を防ぐために一回のシーズンに140回も殺虫剤を散布する必要があり、このための健康被害は農村地帯での主要な問題なのだ。ところが現地の新聞では、このBt には殺虫効果がなく、害虫の跋扈のためにナスが枯死してしまったという記事が出た。実際に現地に行ってみると、ナスはよく実り、これまでの2倍の収穫量があったという。さらに市場では殺虫剤を使っていないナスというのでやや高い値段で売れたということで、実際は良いことづくめであったという。

どうやら真相は、反 GMO 活動家による虚偽の情報にもとづいた記事が作られたらしいことがわかってきた。今のところ、農家にとって良いことづくめに見えるBtナスの普及を妨げるのはどのようなグループか? 現実には途上国におけるGMO の栽培の試みはこれが最初の例であり、この件の成功は大きな試金石となる。実際、インド、フィリピンでは議会での反 GMO ロビー活動により GMO の栽培は凍結状態になっている。

この NYT 記事の筆者、Mark Lynas は英国出身でもともと反 GMO 活動家であった。実際英国内では栽培中の作物を引き抜いたりする実力行使にも参加していたというから、この人は生半可な反 GMO 主義者ではなかったはずである。しかしその後、気候変動の研究者となり、この研究活動を通じて疑問を持つことにいたった。一人の人間が一方で pro-scientificな活動(地球温暖化説の肯定)を行い、他方で anti-scientificな活動(反GMO)を続けることに矛盾を感じるようになったという。筆者は“人の活動による地球温暖化は事実である”ことと、“GMO は安全である”という二つの科学的事実をともに認めることにしたのだという。

Lynas によると、アフリカ諸国の GMO 禁止はただ一つの論文に基づいているという。それはフランスで行われた研究で、ラットを用いて GMO が癌を起こしたというものである。この仕事は多数の不作為のために撤回されている。インチキ論文だったのだ。

反 GMO 活動はアフリカ各国での  GMO の導入を妨げていて、その結果生産性が低いまま食料が高騰し、人々の栄養不良を招いているという。ここでも大きな役割を果たしているのはグリーンピースである。グリーンピースはビタミンA不足を防ぐゴールデン・ライスの普及も妨害している。

科学・技術では科学者と一般市民の間で評価が違うのがふつうだが、GMO の評価においてはそのくい違いが甚だしい。Lyan は社会に広まっているこのような誤解を解消するべく、GMO に関する真の情報を発信しようとしている

GMO の開発はモンサントのような多国籍企業が、その財力にものを言わせて発展途上国に売りつけて利益を吸い上げようとしているという構図が広まっている。これが GMO = evil という先入観を作り上げた大きな理由だと考えられる。しかし今回紹介したようなBtナスやゴールデン・ライスは非営利団体(後者はマニラにある国際イネ研究所 (IRRI)が作出したものであり、これらの普及によって誰かが莫大な利益を得るわけではない。このナスの普及活動はコーネル大学と BARI の非営利の共同プロジェクトで、資金源も米国政府機関 (USAID) である。大事なことは、ますます深刻化しつつある食料供給の不足、農業従事者の貧困からの脱却をどう解決してゆくか、これらの難題に真摯に答える努力をしてゆくのが必要ではないだろうか? “真摯に答える”とはデータにもとづいた (evidence-based) 合理的判断を下すということである。

Btナスの導入に反対している市民グループの主張もあげておく。それよると、バングラデシュ付近はナスの原産地とされ、多数の栽培品種が見られる。ここでは数百年にわたって248品種ものナスが、ナス農家による自家採種によって維持されてきたという。Btナスの導入はこのような多様な在来品種の減少(ないしは絶滅)を促すことが危惧されるということである。


しかしこのような在来品種の減少は、GMO の導入によらずとも、在来型の品種改良で作出された優れた栽培品種の導入でも起こりうることである。現実的な解決策を考えると、現地の農家は最良の品種(この場合はBtナス)を導入することで生活の質を改善すること、およびこれとは別に公的機関が在来種の品種の維持を行うというのが妥当な線ではなかろうか? 


こうすることで現在の人々の幸福(ナスの生産)と、将来の人々の利益(遺伝子資源の保存)の両方が達成されると私は考える。



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